文の林

つたない文章の雑木林です

駅トイレの神さま

朝、電車で会社に向かっている。
突然便意を催してきた。
会社までもちそうもない。
次の停車駅で降りてトイレに行こう。
会社には十分間に合う時間の電車に
乗っていたので遅刻はしないだろう。
停まったと同時に電車から降りた。
プラットフォームを急ぎ足で歩き
トイレを探す。
階段を降りたところに男子トイレがあった。
トイレに飛び込み、空いている個室を探す。
入り口に近い個室に直行。
急いでズボンをおろす。
下痢気味だ。
朝食の冷えた牛乳のせいだろうか?
しばらくぶりの牛乳だったので
腹が驚いたのだろうか。

スッキリしてトイレットペーパーを取る。
取るつもりが、アゼンとした。
トイレットペーパーが無い。
ズボンのポケット、カバンの中をさぐる。
どこにもティッシュは入っていなかった。
ティッシュの代わりになるものも無い。
困った、あーー困った。
他に空いている個室があったのに
トイレットペーパーの有無を確認しないで
入ったのを悔やんだ。

手洗いのところで足音が聞こえる。
恥ずかしいのをこらえて、
「すみません、トイレットペーパー
なかったので、どこかに置いてあったら
投げ入れてくれないですか」と言った。
手洗いのところにいた人は
「ごめーん、急いでいるのでー」と言って
足音が遠ざかっていった。

どうしよう、どうしようと思っても
このまま出て行くわけにはいかない。
「あーー、神さまーー、かみさまーー」と
つい、声に出してしまった。
と、その時、個室の上から
ソフトボールくらいの大きさに丸められた
トイレットペーパーが天井から落ちてきて
頭に当たった。
あわてて両手で受け取った。
1万円札が落ちてくるよりうれしかった。

駅トイレには神様がいるのだろうか?
ありがたく使わせていただいた。

遅刻しないで会社に着いた。
今朝の不思議な出来事を同僚に話した。
同僚は、
「おまえ、まだ知らなかったのか?
駅トイレのトイレットペーパーは
音声対応で、『カミサマ』って言えば
天井から落ちてくるんだぞ」と、
ニヤニヤしながら教えてくれた。
みなさん、駅トイレの個室から
切羽詰まった声で「カミサマ」と言う声が
聞こえたら、
トイレットペーパー1回分を丸めて
天井の隙間から投げ込んであげて下さい。