文の林

つたない文章の雑木林です

おばあちゃんとの約束

ケンタロウは、お母さんからお盆になったら
亡くなった人が戻ってくることを聞いた。

ケンタロウは、おばあちゃんとの約束を
守らなかったことを思い出した。

おばあちゃんのお菓子をこっそり食べていたんだ。
いつもはほんの少しだけ食べていた。
あの時、袋に半分くらい残っていたお菓子は
とてもおいしかったんだ。
気づいたら全部食べてしまっていた。
袋が残っていなければ、おばあちゃんは
気が付かないだろうと袋を捨ててしまったんだ。
おばあちゃんは覚えていたのかなあ。

いやいや、違う、お金のことだ。
おばあちゃんに千円札を渡されて
買い物をしてお釣りはポケットに入れたんだ。
帰ってきて、買ってきたものとポケットの中の
お釣りをおばあちゃんに渡したんだ。
そしたら後でポケットの中に100円玉が
ひとつ残っていたんだ。
後から返すのも変なので、返さなかったんだけどね。
おばあちゃんはお金には厳しかったからなあ。

やっぱり、湯飲み茶わんのことかな。
おばあちゃんが大事に使ってた湯飲みを
割ってしまったんだ。
いつもおばあちゃんが湯飲みでお茶をおいしそうに
飲んでいたので、僕はその湯飲みで水を飲んだら
おいしいんだろうなと思ったんだ。
それで、水を入れて飲もうとしたら、手から滑って
落ちてしまい、割れてしまったんだ。
後で割れた湯飲みをみつけて、おばあちゃんが、
「誰が割ったの」と怒っていたので
僕がやったと言えなかったんだ。
お父さんが「長く使っていたんだから寿命だよ」と
言ったので、おばあちゃんはそれ以上
言わなかったんだけどね。

おばあちゃんも約束守らなかったんだ。
僕が良い子にしていれば、今テレビで人気の
太陽系三兄弟戦隊レンジャーのうち好きなのを
ひとつ買ってくれると言っていたんだ。

おばあちゃんは急に具合が悪くなり
病院に2日入院したら死んでしまったんだ。
お父さんは「寿命だな」と言ったが、
僕は、寿命って、意味がわからないけど、
湯飲みと一緒じゃおかしいと思った。

おばあちゃんは太陽系三兄弟の中で
一番顔が良くて女の子に人気のある
ヨウレンジャーがいいのではないかと言ってた。
お父さんは、顔なんかどうでもいい、
頭脳派のケイレンジャーがいいんじゃないかと
言ったんだ。
でも、僕はパワーがあって運動能力が高い
ダイレンジャーが欲しかったんだ。

夜、寝ていたらおばあちゃんが寝ていた
部屋からゴトゴト音がした。
今、その部屋には仏壇が置いてある。
ケンタロウはおばあちゃんが戻ってきたんだと
思った。
ケンタロウは、おばあちゃんの部屋に向かって
「おばあちゃんの湯飲み割ったのは
ケンタロウです、だまっていてごめんなさい」と
言った。
続けて、小さな声で
「おばあちゃんのお菓子食べました、
それと100円返さなくてごめんなさい」と言った。

翌日、お母さんが
「きのう、おばあちゃんが戻ってきて、
ケンタロウとの約束を忘れていたよ」と
言っていたと教えてくれた。
そして、おもちゃ屋の包装紙の箱を渡してくれた。
ケンタロウは、たぶんダイレンジャーだと思った。