文の林

つたない文章の雑木林です

老人王国

国は高齢化社会に対応して、老人を一か所に
集めて暮らす場所を提供した。
高台で見晴らしも気候もすばらしい一等地で
地震にも津波にも強い場所だ。

一番中心に店・病院・浴場・集会所を造った。
小さいながら床屋・郵便局・歯科医院もある。
その周りにゆったりと暮らせる住居を建てた。
住居の周りに花畑や野菜畑をつくることができる
空き地を用意した。
畑の周りに散歩用の小道をつくった。
暮らしに必要な全てが一か所に集約された、
いわゆるコンパクトシティである。
交通機関はない、健康のために移動は徒歩だ。
中で働く人も全て老人だ。

ここは「老人王国」と名付けられた。
王国なので王様がいる。
王様はみんなの投票で選ばれる。
王様はトラブルの仲介が主な仕事だ。
問題のある老人はみんなの投票で国外に
追放する制度があり、トラブルは少ない。
集会所の小部屋は絵画・将棋・カラオケなどの
趣味の場として使うことができる。
大部屋は定期的に歌手やお笑い芸人が
来るので老人たちの娯楽の会場である。
家族が来て団欒を楽しむ部屋でもある。
浴場には大きな浴槽があり、ゆったり浸かる
ことができた。
老人は穏やかに暮らしを楽しんでいた。

病院は延命処置は行わない。
病院の仕事は怪我の治療と風邪薬などの
処方とあともう一つだ。
そういう老人しかここに来ていない。
老人にとって老人王国は理想的な場所だ。

ベッドに寝ついて起きられなくなったら
知り合いの老人たちが別れに来る。
1週間以上ベッドで寝たきりの老人はいない。
毎月新たな入国者を受け入れているが
老人王国の人数は変わらない。