文の林

つたない文章の雑木林です

若い時の苦労

私が小学生だった時、とある店の
商品棚に縦横10㎝、高さは15㎝くらいの箱に
「くろう」と書いてあるのがひとつあった。
値段は1,000円だった。
「若い時の苦労は買ってでもせよ」という諺を
知っていたので、中に何が入っているのか
とても気になった。
1個しかなかったので売れたらどうしよう。
夜寝ていても、授業中も「くろう」の中身が
気になって仕方がない。
どうしても「くろう」を買いたかった。

自分はまだ若いので「くろう」を買ったら、
きっと良いことがあると信じていたのだ。
自分の小遣いでは全然足りなく、
家は貧乏なので親に言っても無理だった。
「くろう」を買うことができなかった。
私は悪い悪いと思いながらも「くろう」の箱を
万引きてしまった。

どのようなものが入っているのか
ドキドキしながら「くろう」の箱を開けてみた。
中にはプラスチックでできた頭以外は
黒い鳥が入っていた。
親に聞いたら、鵜と言う鳥のフィギャア
ではないかと教えてくれた。
なんだなんだ、黒い鵜、クロいウ、クロ・ウ?
ふざけんなよと思った。
悩んで悩んで盗んででも手に入れたのに
ガッカリだった。

その後の人生で手に入れたい物があったら、
盗んだり、ごまかしたりして手に入れた。
何回かはうまくいったが
とうとう捕まってしまった。
刑務所の牢屋の中で、あの諺は
若い時に「苦労すること」ではなく、
自分のお金で「買う」という事が
重要なのだと思い知った。