文の林

つたない文章の雑木林です

訳あり物件(2)

以前、その部屋に入居した夫婦やカップルが
別れてしまうという訳あり物件を紹介した。
今回もブラックで要望が多い部屋だと
思うのですがネ。

その部屋は最初は働き盛りの若い女性が
入居した。
出社してこないと言うので会社の上司が
部屋に来た。
通勤に使用している車が駐車場にあった。
部屋を行き来していた同僚がスペアキー
持っていたので、彼女に来てもらい
スペアキーで玄関ドアを開けた。
入居者の女性は部屋で亡くなっていた。
後で遺族の人に聞いたら、
夜ベッドで寝ていて急性心不全
亡くなったのではないかと教えてくれた。

次に同じ部屋に中年の男性が入居した。
前に住んでいた女性がこの部屋で
亡くなったことを伝えても気にしないと言う。
そして、家賃が安くなったぶん得だと言う。
友達が釣りに行く時間になっても来ないので
この部屋まで来た。
電話も繋がらないし、いつも使っていた
バイクが駐車場に置いてあったので、
部屋にいるだろうとなった。
他の部屋で管理人の電話番号を聞いて
私に連絡が来た。
私は前例があるので悪い気がしていたが
スペアキーを持ってその部屋に行った。
友達が玄関のドアを開けた。
男性は釣りの雑誌の横で亡くなっていた。
急性心臓病だった。

管理人としてはショックである。
このような場合、次の入居者は
なかなか決まらないし、
さらに家賃を下げなければならない。
不動産会社に訳ありで入居者を募集した。

母親が住むアパートを探していた、
息子夫婦が入居を決めてくれた。
田舎に住んでいた両親だが、
先月父親が亡くなった。
足が少し不自由な母だけが残された。
母と一緒に住むには
息子の家は子供もいて無理だった。
そこで、息子は家の近くにある
このアパートに母が住むことを決めたのだ。
家賃は相場よりだいぶ安かった。
母親には前に住んでいた人の事は
伝えていない。

母親は田舎では細々と野菜を作ったり
花を育てていたのだが、
アパートに住んでからはタクシーを利用し、
ショッピング、映画や外食に出かけた。
今までのような夫の縛りがなくなり、
部屋代は息子が出してくれているので
お金はけっこう自由になったからだ。
母親は、息子の思惑などどこ吹く風のように
人生を楽しんでいる。
残念ながら、長寿を全うしそうだ。