文の林

つたない文章の雑木林です

ぼくは家を出る

「おもちゃ貸してあげてね、お兄ちゃんなんだから」って、
僕だって、そのおもちゃで遊びたいのに。
お父さんもお母さんもいつも弟のことばかり。
しかたがないから、おもちゃを貸してあげて、
僕は違うおもちゃで遊ぶんだ。
そうしたら、また弟は僕の遊んでいるおもちゃを貸してと言う。
もういやだ~
ぼくは一人で家を出た。

高い空から、カラスが飛んできて言いました。
「せまい家の中にいるより、外に出ようよ
 食べ物なんて、いろんなところにあるんだ、
 楽しいおもちゃは、そこらじゅうにあるぜ
 外は広くて、面白いものがたくさんあるんだ」
そうだ、弟と一緒に家にいるより外で遊ぶ方が
ずっとワクワクドキドキで楽しそうだ。

柵の中で牛がおいしそうに草を食べていました。
柵に一番近い牛が言いました。
「お父さんとお母さんが言うようにしたほうがいいよ。
 寒くなって外に食べ物がなくなってきたらどうするの。
 お父さんお母さんと一緒にいたら、
 部屋も食べ物も用意してくれるんだよ」
そうかなあ、でも、弟におもちゃとられるしなぁ。

空の中央で太陽さんがギラギラ笑っています。
太陽さんが大声で言いました。
「男の子は、外で元気に遊ぼう
 暖かい光をあびれば、楽しくて気持ちはウキウキだ」
そうだよ、一人でも楽しいよ。

茶色の猫がひなたぼっこしてました。
猫は、ぶっきらぼうに言いました。
「一人は自由でいいだろう、
 誰からもじゃまされずにすむんだ
 自分で好きなようにしたらいいよ」
ちょっと、お腹すいてきたなあ。

少し暗くなってきて、月がでてきました。
月は心配そうな顔をして言いました。
「太陽さんが出ているとき、私も出ているんだよ。
 でも、私は見えないんだよなあ。
 普段は気が付かないことがあるんだよ
 お父さんもお母さんも、坊やを探していると思うよ」
本当だろうか、帰りたいけど、帰りたくないよ。

もう少し暗くなってきました。
木の上の賢そうなふくろうが言いました。
「坊やの名前は?」
「僕のなまえは、ケンタロウ」
「ケンタロウって、だれが付けたのかな?」
「たぶん、お父さんとお母さんだよ」
「そうだよ、お父さんとお母さんが坊やのために
 いろいろ考えて、とっても良い名前を付けてくれたんだよ
 そして、弟が生まれるまでは、ケンタロウひとりに
 愛情をかけてくれたんだよ。
 弟がいれば愛情は半分になってもしかたがないんだよ。
 暗くなったので、お父さんとお母さんが心配して
 ケンタロウを探しているよ」
そうか、忘れていたなぁ
お父さんとお母さんは、僕が健康で元気に
育つようにってケンタロウって付けてくれたんだ。
家の方からお父さんの「ケンタローーー」と言う
呼び声が聞こえてきました。
ケンタロウは家に向かって歩き始めました。