文の林

つたない文章の雑木林です

月旅行

この時が一番緊張するのだ。
宇宙船が静かに下降していき
ショックはほとんどなく着地した。
パイロットの私は、ホッとして告げる。
皆さん、月に到着しました。
気分が高揚しているのは
分かりますが、静かに喜んでください。
外出は5分、5分間だけです。
重力は地球の1/6です。
喜んで飛び上がったりしないでください。
もう一度言いますが、5分で戻ってください。
遅れた人は、ここが墓場になりますよ。
飛行前に説明したように
地面の土とか石などの採取、
写真の撮影はダメです。
それでは、今から外に出ますよ。

背中に酸素ボンベを背負う宇宙服を着て
頭には特殊なヘルメットをかぶっている。
視界はあまりよくないはずだ。
動ける範囲もそれほどでもない。
危険なことは少ないだろう。
高額のお金を払って参加した8人は
未知の空間に恐る恐る出て行った。
少し霧がかかっているようで薄曇りだ。
空には丸い地球が青白くみえている。
誰にでもできない貴重な体験を味わっている。
金持ちだけが出来る究極の道楽だ。
参加者は月面の短い時間を満喫している。

打ち上げ後に重力がかかり、
本人は気を失ったと思っているが
船内に眠くなるガスを出していたのだ。
参加者は自分が気を失っていたなんて
言えないので全員黙っているものだ。
窓から見えるのはモニター画面だ。
モニターには実際に月に行った時に
録画したものが放映されている。

ここは、ハワイの荒涼たる土地だ。
地球上で一番月面に近い雰囲気だと
言われているところだ。
スモークを張って遠くは見えないようにして、
空に地球があるようにレザー光線で
投影している。

帰りも船内で気がつかないように
眠ってもらい、無駄に時間を使うのだ。
ある程度の高度になったら起きてもらい
着水するところを見てもらう。
参加者は、無事地上に戻ってきたことを
安堵し喜ぶ。

宇宙船とハワイの設備にお金がかかる。
重力を加減するのにもお金がかかっている。
それでも、一人当たりの旅費が超高額なので
毎月行っているが十分儲かってる。
次は金星旅行を考えようかな。