文の林

つたない文章の雑木林です

ケンタロウ家の水

ケンタロウがまだ小さい時、
裏玄関にあるポンプで水をくんでいた。
水をくむのはケンタロウの仕事だった。
お父さんにどこから水が出てくるのと聞いたら
地面から10m位下にある水だと言う。
地下にたくさんの水が溜まっていても
毎日ポンプでくみ上げていれば
家とか沈んでいかないか心配だった。

くみあげた水は台所まで管を通して
大きな水瓶に貯めたり、
バケツに入れて家畜に飲ませたり、
乳を搾った大きな牛乳缶を冷やすための
タイル張りの水槽に貯めたりした。
これが毎日の仕事だった。

冬はポンプを使い終わったら
凍ったら困るので水を落とす。
水を落とすって、ポンプから水を抜くこと
なんだけどね。
水を落としたあとに、また出すときは、
ポンプの上から水を入れてやらなければ
ならなかった。
ケンタロウはお父さんから
ポンプの使い方を教えてもらって、
少し大人になった気分になった。
お父さんは水の出が悪くなったら
ポンプの中からピストンを取り出して
新しいを弁を付けたり修理してくれた。

知り合いの人がケンタロウの家に来て
水を飲ませてくれと言った。
水道水よりこっちの水の方がうまいと言った。
ケンタロウの家も水道工事をして
蛇口をひねると水が出るようになった。
ケンタロウは地下水と水道水の
味の違いがわからなかったが、
蛇口を開けると勢いよく水が出てくるので
どこかで大きなポンプが一生懸命水を
送っているのだなと思った。
ケンタロウの水くみ仕事はなくなった。