文の林

つたない文章の雑木林です

ケンタロウの学芸会

思い出として大きく残っているのは、
学芸会で閉会の辞を行ったことだ。
普段は自分の組が何かステージの上で
行うときは座って見ていた。
自分の組以外が何か行っているときは
退屈した何人かと集まって
体育館の後ろの方で遊んでいて、
たまに先生から注意を受けた。
ケンタロウが閉会の辞を行うときは、
学芸会が始まった時から緊張して、
ステージの上で行われていることは
ぜんぜん目に入ってこなかった。
しゃべる言葉を声に出さないで
何回も何回も繰り返していた。
学芸会が終わりに近づくにしたがって
緊張感が高まってきた。
とうとう一番最後の閉会の辞の時が来た。

ケンタロウは閉会の辞をしゃべった。
マイクに向かってしゃべったことは
覚えているが、考えていた言葉が
正しく出ていたか覚えていない。
しゃべり終わった後の安堵感。
気持ちがスーーーとしたのだけが
強烈に思い出に残っている。
パンパンだった風船が空気を吹き出し
急にしぼんだような感じだった。
小学校でこのような大役を任されたのは
この1回だけだ。
お母さんは、よく頑張ったねと言って
ケンタロウが大好きな赤飯を作ってくれた。

そうそう、学芸会の発表でクラス全員で
歌うのが嫌いだった。
ケンタロウは、歌っているような口の形にして
声は出さなかった。
音楽の通信簿が「2」だったせいだ。
もっと成績が良かったら大きな声を
出していただろうな、、、と思う。

学芸会で時代劇を行うことになった。
家に番傘がないかと先生が言った。
番傘ってよくわからなかった。
お母さんに聞いたら、あったかもと、
物置の棚の上を探したら置いてあった。
ゲゲゲの鬼太郎に出てくる「からかさ小僧」の
ような代物が出てきた。
開いてみたら、ところどころ破れていて
使い物にはならなかったが劇には
使えそうなので学校に持って行った。
劇の中で大事な小道具として出てきた。
番傘が使われて、ケンタロウはうれしかった。

ケンタロウは、学芸会は学校行事としては
必要かもしれないが、体育館の窓に
黒いカーテンをしている薄暗いところより、
明るい青い空の下の方が大好きだった。