文の林

つたない文章の雑木林です

ケンタロウの正月(2)

ケンタロウの家の風呂は五右衛門風呂だ。
風呂に入るとき水面に浮いている板を
踏みつけて底に沈めなければならない。
浴槽の湯はけっこう熱い。
寒い冬は、浴槽から離れた洗い場の下は
凍っているところもある。
晦日は風呂から上がったら、
お母さんが服を用意していてくれる。
下着や靴下は新しいものだ。
服やズボンは余所行きのものだ。

仕事を急いで終わらせて戻ってきた
お父さんとお母さんと一緒に
神棚に向かってお参りする。
神棚にはお母さんが作った料理が
お供え物として並べられている。
普段出てこないおいしそうな食べ物がある。
お母さんが忙しい中に作ったものだ。
ケンタロウは涎を出さないようにして眺める。
そういえば、少し前の日から
部屋中に醤油の臭いがしていた。
お母さんが煮しめを作っているからだ。
ケンタロウは、この臭いをかぐと
もうすぐ正月が来るのだと思った。

家族でみんなで紅白歌合戦を観る。
ケンタロウはいつも途中で眠たくなる。
布団の中で寝なさいと言われ布団に行く。
紅白歌合戦の勝敗はわからないままだ。
紅白の後にどこのチャンネルでも同じ番組の
ゆく年くる年」をやっていることや
晦日が終わった瞬間から初詣するために
神社にたくさん人が集まっていることは、
小さいケンタロウは全然知らなかった。

ケンタロウの家では近くの神社に初詣に行く。
歩いて5分位の所にある大きな神社だ。
元日の空気はなぜか新鮮な気がした。
道路は雪が踏みつけられてツルツルの
ところもある。
滑って転ばないように注意して歩く。
正月から骨折なんかしたくないからだ。
神社の周りには露店が出ていて
暖かい飲み物とか売っていた。
境内でお母さんから五円玉をもらい
神殿の前でお参りする時に賽銭箱に
投げ入れた。
他の人と同じように2回手をはたき
お辞儀した。
お父さんとお母さんはケンタロウより
長くお辞儀をしていた。

家に帰ってきて暖かい雑煮を食べる。
雑煮が飽きてきたら、ダブルラーメンに
餅を入れて食べる。
四角い餅にラーメンの麺が絡みついて
すごい状態になるが
ケンタロウはこれが好きだった。

ダンボール箱から勝手にみかんをとってきて
良いのは正月だけの特権だ。
正月はケンタロウにとって1年の中で
一番好きな行事だった。