文の林

つたない文章の雑木林です

介護

夜は父の介護でベッドの横で寝ている。
私が寝てから父は数回トイレに起きる。
父がトイレに行きたいときはベッドで
カサカサと布団を動かす音がする。
私は「トイレに行くの?」と聞くと
父は「トイレ」と短く答える。
私は布団から起きて父をベッドから起こす。
とりあえずベッドから足をおろし、
首の下の左手を入れ、右手で足を手前に
引きながら父の上半身を起こす。
父は「どっこいさのさー」と言いながら起きる。
お尻を軸にして回転するように起こすので
力はそんなに必要ない。
ネットに書いてあった起こし方だ。
ベッドに腰掛けた状態から「よいこいしょ」と
父と声を合わせて立たせる。
私は父より身長が10㎝は高いので
難なく行うが女性たちはベッドの背を
立ててから起こすようだ。
立ち上がった父を転ばせないように
トイレまで連れて行く。

父を転ばしてしまうと骨折が心配だ。
昨年、父は一人で昔の重いアルバムを
持ち上げようとして転倒し背骨を骨折した。
入院して胸から腰にコルセットを取り付けた。
退院後もコルセット生活が2ヶ月以上続いた。
この時は介護する方も大変だった。

私が寝てからごくまれに1回もトイレに
起きない時もあるが、普通は1・2回、
多い時は5回起きる時もある。
私は気持ちは若いつもりでいるが70に近い。
父は90を超えている。
私一人で介護しているわけではない。
食事の支度は妻や私の姉妹がやっている。
掃除や洗濯も女性が行っている。
トイレから戻りベッドに横になった後に
布団をかけてあげると「ありがとう」と
言ってくれる。
毎回このような感謝の言葉を聞くと、
介護のし甲斐があると言うものだ。
夜ぐらいは私がずっと面倒見てやるよ。
紙パンツが汚れていたら取り換えてやるよ。
私が赤ちゃんだった時にオムツを交換して
くれたのだから息子として当然のことだ。

今夜は父はトイレに起きないようだ。
起きなくても神経は張りつめているので
私はうつらうつらの状態で寝ている。
傍から見ると、横で寝ているだけだから
そんなに大変ではないでしょうとか
あなただって寝てから何回かトイレで
起きるだろうと思われるかもしれない。
このような状態が1年以上続いている。
今日はいつもよりぐっすり眠られるようだ。

お義父さんは「トイレ」とか「ありがとう」と
言ってくれるのに、あなたは寝たきりで
うんともすんとも言ってくれない、「も~」と
妻が疲れた顔で言った。
部屋には介護ベッドが2台置かれていた。