文の林

つたない文章の雑木林です

B死の場合

先月は中華の店でたらふく食べて
いろいろな酒を飲んできた。
麻婆豆腐も酢豚も美味しかったが、
なんといっても出来立ての焼き餃子が
美味しかった。
正子と二人でだいたい月に1回くらい
外で食べることにしている。
ソファに座って近くのテレビを観ている。
今月はどこに食べに行こうかと考える。
テーブルには焼酎を飲んでいた
空のグラスが置いてある。
「マサコ、酒、それと何かツマミないかー」
台所にいた正子は、冷蔵庫を開けて
「野菜炒めで良い?」と言う。
「わかった」と言い、ソファーに横になる。
季節は秋だが、まだまだ暖かい。

若い時の自分が浮かんできた。
最初の会社は1年で辞めてしまった。
周りから我慢してもう少し勤めてみたらと
言われたが、同じ職場の女性と同時に退職。
東京に行けば仕事なんて何でもあると思い、
二人で東京に行った。
とりあえず、タクシーの運転手を
募集していたので運転手になった。
今のナビなんて無かった時代なので
道を覚えるのに苦労した。
それでも何とかなったのは、
お客さんに道を教えてもらったからだ。
たまに怖いお兄さんも乗ってきた。
タクシーは一日働いても歩合なので
ぜんぜん儲からない日があった。
いつも決まった時間に乗せる女性と
付き合い始めて東京に一緒に来た
女性と別れてしまった。

次に飲み屋さんが終わった後の女の子を
車で家まで届ける仕事した。
仕事時間の予定が組めるので無駄に
車を走らせることが無かった。
また、たまにチップを貰えてた。
当然のように飲み屋の女の子と一緒になった。
晩から夜明けに仕事して昼間は寝ていた。
この仕事の時に交通事故を起こしてしまい、
運転免許を無くしてしまった。
レストランの皿洗い、チラシ配り、コンビニ店員、
コンビニの弁当作りなどいろいろやった。
X社の大きな倉庫の夜警は、寝る時間くらい
あるだろうと応募したが、夜中でも車の
出入りが多くて寝る時間が無かったので
すぐに辞めた。
職種に拘らなければ仕事はいろいろあった。
絶対に儲かるITビジネスと謳った仕事の時は
説明会でのサクラ要員だった。
時給は高かったが危ない雰囲気だったので
これもすぐに辞めた。
まともな会社に勤めていなかったから
年金なんて払ったことは無かった。
当然だ。

子供?
作ったかもしれないが、
一度も認知していないので
いないことになっている。
運転免許再取得してから
小型のバスでデイサービスの送迎をした。
今は正子と付き合って一緒に住んでいる。
正子は介護の仕事をしているので
俺の事を気遣ってくれる優しいやつだ。
何人の女の人の世話になったのかな?
なんとなく名前は憶えているが順番は
もう覚えていない。
その時々で、みんなと楽しくやった。
よく俺みたいな優柔不断で適当な男の
面倒をみてくれたよ。
普通の人の何倍もの人生を楽しんだな。

先週の競馬は大当たりだった。
いつも思うが当たり馬券が出た時は
もう少し買っておけば良かったと思う。
外れば馬券になった時は、なんでこんなの
買ったんだと悔やんだけどな。
それで、今は財布はパンパンよ。
馬券はいつも、女房のお金よ。
勝負は自分の金を使わないのを
信条にしてる。
負けても自分の懐が痛くないからな。
今、金運のツキが来ているようなので
明日は次の馬券の予想をしなければな。

正子が焼酎のお湯割りのグラスと
料理の皿をを持ってきた。
「あんた、何、いやらしい笑い顔して
寝てんのよ、起きてよ」
「・・・・・」
「あら、息してないじゃないの」
「あんた、お湯割りが冷めてしまうから、
 私が飲むわよ」