文の林

つたない文章の雑木林です

ケンタロウの年の瀬(3)

晦日の深夜に近くの寺の鐘が鳴る。
寺の前に太い木で櫓が組んであり、そこに
大きな重そうな鐘が吊り下げられていた。
寺の前に広場がありよく遊んだ。
鐘のところでも遊んだ。
鐘の中に頭を突っ込んで
鐘を突くと、ガ~~~ンっと頭がしびれた。
ここで遊んでいると寺の坊さんに怒られた。
吊り下げられている鐘が落ちたら子供は
大怪我をするからだったんだろうな。

家の近くに神社もあった。
紅白歌合戦が終わったら
神社の境内にたくさんの人が
集まっているのは小さい時の
ケンタロウは知らなかった。
ケンタロウは家族揃って元日の
午前中に初詣に行く。
賽銭箱の上にある鈴についている紐。
紐を振ると上についている鈴が
ガラガラと音を立てる。
お賽銭を入れても、ガラガラさせないと
お願いが叶わないと思っていたので
ケンタロウは左右に大きく振った。
お寺の大きな鐘も神社の鈴も
知らないうちに無くなっていた。
お父さんに聞いたら、
近くの家から「夜中からうるさい」と
言われたから外したのかなと教えてくれた。

年末には豚肉やタコが物置の天井に
ぶら下げられていた。
春になる前にはなくなっている。
物置は冬の間は天然の冷凍庫になる。
ついた餅は寒い部屋に並べて凍らせた。
たくさんあった餅は1月中旬には
なくなってしまう。
晦日にお母さんがケンタロウが大好物の
茶わん蒸しを作ってくれる。
茶わん蒸し専用の容器だけではなく
普通の茶わんや湯飲みにも作っていた。
茶わん蒸しは冷えていても美味しいので、
晦日で食べきれないのは正月に食べる。
ケンタロウは茶わん蒸しは
スプーンで食べるので和食ではなく
洋食だと思っていた。
晦日に海老や鯛の口取りが置いてある。
これはとっても甘いのをケンタロウは
知っていた。
これはおかずと一緒に並んでいるが
ご飯のおかずではなくお菓子だった。

紅白歌合戦が始まって少しするとお母さんが
蕎麦を作って出してくれる。
豪華な夕食で腹いっぱい食べているが、
お椀に残った汁まで全部飲んでしまう。
後は寝るだけだ。
起きたら、楽しみな正月になっているのだ。